MOVIE 激突!



視聴日:2013/8/5

原題:Duel
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:リチャード・マシスン

しがないセールスマン、デイヴィットマンは借金取り立てのため車でカリフォルニアへ向かっていた。
道中、前をのんびりと走るトレーラーを追い越すのだが、そのトレーラーから執拗な追跡を受ける。


激突!は極上のホラー映画である。

冒頭のシーンから、既に観客はサスペンスの仕掛けに放り込まれている。
走行する車を道路上から撮影したシーンは、一見何の意味も無い時間のように見えるが、
それこそが監督の狙いなのである。
観客は、この車に乗っているのは主人公なのか?それとも敵なのか?と想像を巡らせてしまうのだ。
しかもこの運転手の正体は中々明らかにならず、暫くはカーステレオからラジオが流れる時間が過ぎていくだけ。
だが、この時間は全く冗長ではなく、さらにお客をサスペンスの渦に落とす仕掛けになっている。
このカーステレオに物語のヒントがあるのでは?もしかしたら、隣を走る車が怪しいのかもしれない…。
そして運転手の正体が明らかになる頃には、すっかりこの映画にのめり込んでしまっているはずだ。

冒頭がお客を映画の世界に引きこむ仕掛けだとしたら、中盤は恐怖に引きこむ仕掛けが満載だと言える。
主人公のデイヴィット・マンは、何度か追い越しをしたトレーラーに執拗に追跡される事になるのだが、
このトレーラーの運転手の意図が分からないのが何とも恐ろしい。
お客も、デイヴィットも、運転手について知っているのは「トレーラーの運転手」という事だけなので、
運転手が「何故デイヴィットを追跡するか」の理由が全く分からないのだ。
追い越ししただけで、人に殺意を抱けるのか?
そんな殺意を持つ人間に、自分の話は聞き入れてもらえるのだろうか?
同じ人間なのは間違いないのに、自分の理解を超えた存在に恐怖を覚えてしまい、
そこにいるはずの運転手がまるで化け物のように感じてしまうのだ。

物語はデイヴィットの機転により、トレーラーを崖下に落として決着を迎えるのだが、
このトレーラーの結末がまた恐ろしい!
トレーラーが落ちる時に流れる地鳴りのような音は、まるでトレーラー自身の断末魔のようだ。
そしてこの物語で一番恐ろしいのは、最後まで運転手の正体は明かされないところである。
運転手が使っていたと思われる小型扇風機には、恐らく運転手のものであろう服の断片が張り付いている。
しかし、血が滴り落ちているのにも関わらず、運転席に彼の姿は見えないのだ。
運転手はどこに行ってしまったのか?死んでしまったのか、もしくは生き延びたのか…。
またデイヴィットに復讐をしに戻ってくるのではないか…。
そして、観客は席を立った後でも冒頭と同じサスペンスの渦に取り込まれてしまうに違いない。

スタッフロールで佇むデイヴィットの姿は非常に感動的だが、
この幸せが長くは続かないような予感をさせてしまうのは、運転手の姿がどこにも見えないからだろう。
私には、まるで彼自身にトレーラーの狂気が乗り移ってしまったのように見えてしまうのだ。

人は自分の理解出来ないものに対して恐怖を抱いてしまう。
監督は、運転手という存在を物語から隠すことによって、
得体のしれない巨大な化け物を作り出したのである!


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OBOEGAKI

2013年7月以降に鑑賞した映像作品や舞台の感想を記録している場所です。
Reviewer:Yayoi Oyama

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